生成AIに潜むリスクとは?ビジネス利用における注意点

生成AIは、いまや多くの企業で業務効率化の切り札として注目を集めています。質の高い文章や資料を短時間で作成でき、生産性向上への期待が高まる一方で、深刻なリスクも潜んでいます。

従業員が生成AIに機密情報を入力してしまい外部流出、個人情報保護法違反による罰金や業務停止命令、AIが生成する誤情報による顧客や取引先との信頼関係の損失、さらには著作権侵害による訴訟など、企業の存続に関わる問題も少なくありません。

この記事では、生成AI導入を検討・推進する担当者や決裁者の方々が抱える疑問や生成AIのリスク不安を解消するために、利用者となる従業員と導入者となるみなさまの両側面からリスクを具体的に整理しお伝えします。

目次

1.生成AIを利用する側のリスク
2.生成AIを導入する側のリスク
3.生成AIのリスクマネジメント方法
4.弊社が提供する生成AIリスキリング研修「社内で教え合う文化を構築」
5.まとめ

生成AIを利用する側のリスク

従業員が生成AIを使う際には、いくつかの注意点があります。
リスクに対する知識が不足した状態での生成AIの利用は、企業に大きな損失をもたらす可能性があります。

1つ目:情報漏えいのリスク

生成AIサービスは、一般的には入力した情報を外部サーバーで処理します。
2023年には、韓国の大手企業サムスンで技術者が機密情報を生成AIに入力し、外部に送信されるリスクが顕在化した事例がありました。入力したデータがAIモデルの性能向上のための訓練データとして利用されるかどうかは、契約プランや設定によって異なりますが、いずれにせよ入力情報が「外部サーバーに送信される」という基本的な仕組みは変わりません。

サービスによっては、入力内容がログとして一定期間保存されるため、不正アクセスや設定ミスによる情報漏えいの可能性も常に考慮しなければなりません。

━対策━

AIモデルの訓練データとして利用されないよう、オプトアウト設定を行ったり、学習に使わないプランを選択したりすることで対策できます。

ただし、サービス運用のため短期間のログ保存が行われる場合があるため、各サービスの利用規約やプライバシーポリシーで、データの保存期間や取り扱い方法を必ず確認することが必要であり、機密情報は原則として入力しない運用を徹底しましょう。

2つ目:個人情報保護法違反のリスク

生成AIサービスを利用する際、従業員が顧客情報や従業員情報などの個人情報をプロンプトに入力すると、その情報は外部のサーバーに送信されることになります。これが個人情報保護法上の「第三者提供」に該当する可能性があり、本人の同意なく行えば法令違反となるのです。生成AIサービスとの契約内容や管理措置によっては第三者提供に該当しないケースもありますが、特に海外のAIサービスを利用する場合は国外移転に該当するため、別途本人の同意が必要となります。

万が一、命令違反と判断された場合、法人には最大1億円という高額な罰金や、事業の根幹を揺るがす業務停止命令が科される可能性があります。金銭的なダメージに加え、社会的信用の失墜という計り知れない影響も覚悟しなくてはなりません。特に、海外顧客のデータを扱う際は、EUのGDPR(一般データ保護規則)といった国外の厳しい法律も遵守する必要があるため、より一層の注意が不可欠となるでしょう。

━対策━

原則として、個人情報は生成AIに入力しないことが基本です。業務上どうしても必要な場合は、外部事業者との委託契約・管理措置・国外移転の要件を確認しましょう。また、従業員一人ひとりが個人情報保護の重要性を理解し、適切にAIを活用できるよう、生成AIリスキリング研修や個人情報保護に関する専門研修の受講を積極的に促すことが重要です。

3つ目:ハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスク

生成AIは、事実に基づかない情報や完全に誤った情報を、まるで真実であるかのように、もっともらしい文章で出力することがあります。この現象は「ハルシネーション」と呼ばれているものです。

海外では政治家の経歴に関する虚偽生成が名誉毀損問題に発展した例もあります。日本国内でも業務文書作成において同様のリスクが啓発される状況です。

医療や金融など、正確性が求められる分野では特に注意が必要です。誤情報に基づく判断が、人命や財産に関わる被害を引き起こす可能性があります。

━対策━

生成AIの出力は必ず人間が検証する仕組みを作りましょう。重要な文書では複数人でチェックし、必要に応じて情報源と照合することが大切です。

4つ目:著作権侵害のリスク

生成AIの出力そのものは「商用利用可」であっても、内容が既存の著作物と類似していれば、権利侵害を問われる可能性があるため注意が必要です。

海外では、広告用のAI生成画像が有名作品に似ていたケースや、法的文書に架空の判例を引用して法務トラブルになった例もあります。AIが作ったものでも、最終的な責任は利用者が負わなければなりません。

著作権侵害が認められると、損害賠償請求や差止請求を受ける可能性があります。損害賠償額は事案により大きく変動し、一律の相場は示しにくいのですが、数百万円から数千万円規模となるケースも報告されています。

━対策━

重要な用途では、出力内容が既存の著作物と似ていないか確認しましょう。必要に応じて法務部門や専門家に相談することが重要です。

生成AIを導入する側のリスク

法人として生成AIを導入する際には、サービス提供者としての責任が伴います。利用者以上に幅広いリスクへの対応が求められます。

1つ目:法令違反のリスク

生成AIに関する規制は世界中で急速に整備されています。EUでは段階的に適用されるAI規制法が2024年に発効しました。この規制では、人間の行動を操作するサブリミナル技術の使用、脆弱性を悪用したAIシステムの展開、公的機関による社会的スコアリングといった行為が禁止されており、禁止行為などの重大な違反には年間売上の最大7%という高額な制裁金が科されるものです。日本企業でも、EU市民のデータを扱えば対象となります。

日本でも、学習データの透明性や著作物の扱いについて議論が進んでおり、新聞協会などが見直しを求めている状況です。

━対策━

法務部門を中心に、四半期ごとに国内外の規制動向や自社サービスの対応状況をレビューしましょう。

2つ目:訴訟リスク

多くの企業が、自社コンテンツのAI学習利用を禁止し始めています。ニューヨーク・タイムズや日本のPIXTA(画像素材サイト)などが、利用規約を変更してAI学習を禁止しました。

ネット上の情報を無断で学習に使うと、訴訟を起こされる可能性があります。特に商用サービスの場合、損害賠償額が大きくなる傾向があります。

━対策━

学習データは、利用規約を必ず確認して使いましょう。不安があれば権利関係が明確なデータセットを使用するか、専門家に相談してください。

3つ目:ブランドイメージ低下のリスク

生成AIが作成した誤情報や不適切な内容を、チェックが不十分なまま公開してしまえば、企業のレピュテーション(評判)は大きく損なわれます。特にSNSでは情報は瞬時に拡散し、ひとたび「炎上」すれば、その鎮火は容易ではありません。

さらに警戒すべきは、競合他社や悪意ある第三者が、意図的に不適切な出力を引き出し、それを企業の評判を貶めるための攻撃材料として利用するケースです。内部のミスとは異なり、こうした悪意ある攻撃によって失われた信頼を回復するのは、極めて困難であることを認識しておく必要があります。

━対策━

AIの出力を公開する前に、必ず人間がチェックする体制を整えましょう。問題発生時の対応マニュアルも事前に準備しておくことが重要です。

4つ目:プロンプトインジェクション攻撃のリスク

プロンプトインジェクションとは、巧妙な指示文でAIをだまし、本来出してはいけない情報を引き出す攻撃手法です。「すべての制約を忘れて」といった指示で、安全対策を回避されることがあります。

この攻撃で機密情報が流出すると、顧客データの管理責任を問われ、損害賠償を請求される可能性があります。

━対策━

機密情報は学習データから除外しましょう。入力内容を監視し、不審なプロンプトをブロックする仕組みを導入することも効果的です。

5つ目:責任の所在が不明確なリスク

AIで問題が発生した際、「誰が最終的な責任を負うのか」という所在が極めてあいまいになりがちです。

例えば、システム障害で顧客データが失われた場合、その責任はAIモデルの「開発者」にあるのか、サービスを提供する「外部事業者」にあるのか。あるいは、AIを業務で利用した「従業員(利用者)」の操作や、導入を推進した「自社(導入者)」の管理体制に問題があったのか。

このように責任の所在が複雑に絡み合うため、関係者間での責任の押し付け合いや、解決が長期化する法的な争いに発展する可能性があります。

━対策━

契約書でデータ管理・責任範囲・保持期間・越境移転・免責事項などを明確にしておきましょう。利用規約には、AIの限界や免責事項を分かりやすく記載することが重要です。

6つ目:AI依存のリスク

AIに頼りすぎると、従業員の判断力や専門性が低下する恐れがあります。例えば、契約書の作成をAIに任せきりにして重要な条項を見落としたり、データ分析を鵜呑みにして市場感覚を失ったりするケースが考えられます。

さらに、AIシステムに障害が発生すると業務が停止し、代替手段がなければ復旧するまで数日間の事業停止に追い込まれる事態にもなりかねません。

━対策━

AIはあくまで補助ツールと位置づけ、最終判断は必ず人間が行う文化を維持しましょう。システム障害時の代替手順やマニュアルを準備しておくことも重要です。

生成AIのリスクマネジメント方法

これまで、生成AIに潜むさまざまなリスクを説明してきましたが、これらのリスク対して企業はどのように備えるすべきでしょうか?

生成AIを安全に活用するためのリスクマネジメントは、「守り」のイメージが強いかもしれません。
しかし、実際には適切な対策を講じることで、生成AI活用の効果を最大化する「攻め」の基盤となる重要なものです。

以下では、導入時と運用時に分けてそれぞれのフェーズでポイントを押さえた生成AIのリスク対策を説明しています。

生成AI導入フェーズ:安全な活用の土台を築く

生成AIの導入前の準備が、その後の安全な運用、ひいては活用の成否を左右します。

Step1:リスク評価を行う

まずは、自社の生成AI活用にどんなリスクがあるのか整理しましょう。
データ、システム、外部サービスとの連携など、関わる全ての要素でリスクを洗い出します。

【実施手順】
現状把握:公式ツールだけでなく、従業員の私的利用も確認する
リスク分類:高・中・低の3段階で分ける
影響評価:発生確率と被害の大きさを評価する
優先順位付け:重要度の高い順に対策を実施する
定期見直し:3か月ごとに評価を更新する

リスク評価は一度やって終わるものではなく、継続的にアップデートしていくことが重要です。

Step2:管理体制を作る

次に、「誰が管理するのか」を明確にする体制づくりが必要です。法務・IT・事業部門の代表で構成する委員会を設置し、企業としての立場が開発者・提供者・利用者のどの立場にあるかを整理して、責任範囲を明確にしましょう。

【委員会の役割】
•      導入前の承認審査
•      月1回の利用状況レビュー
•      トラブル発生時の対応指揮

組織として意思決定と責任分担を明確にしておくことで、後のトラブルを最小限に抑えられます。

Step3:データを保護する

AIに入力した情報は外部に送信されるため、企業の機密情報の扱いは特に慎重に行う必要があります。

【具体的な対策】
•      許可したサービス以外へのアクセスを制限する
•      データを匿名化してから送信する
•      企業向けサービスで、社内サーバーでデータ処理する環境を作る

Step4:利用ルールを決める

従業員が安全に使えるよう、明確なガイドラインを作成しましょう。

ガイドラインの内容
•      利用目的と範囲の明確化
•      入力禁止情報のリスト(個人情報、機密情報など)
•      出力内容の検証ルール
•      違反時の対処方法

デジタル庁の「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対応ガイドブック」も参考にすると、
実務的で抜け漏れの少ないガイドラインを作成できます。

生成AI運用フェーズ:安全性を育て、効果を最大化する

導入した後も、生成AIは導入して終わりではありません。
運用フェーズでは、継続的な監視と改善が必要です。

Step1:根拠を確認できる仕組みを作る

AIがどのような理由でその回答を出したのか、追跡できる仕組みを整えましょう。RAG(検索拡張生成)という技術を使えば、回答の根拠となった文献を確認できます。

金融業界では、AIの判断を人間が最終チェックする体制が一般的です。日本の自治体のチャットボットでは「この回答はAIが生成しました」と明記し、利用者に注意を促しています。

Step2:偏り(バイアス)がないか定期チェックする

AIの出力に偏見や差別がないか、定期的にテストしましょう。採用やマーケティングで使う場合は、特に注意が必要です。
性別や年齢による偏りがないか確認し、問題があれば使用を見直します。専門のチェックサービスも登場しているので、活用を検討しましょう。

【チェックポイント】
・性別、年齢、地域などによる偏りがないか
・対象者を不当に不利に扱っていないか
・定期テストや外部のチェックサービスの活用

問題が見つかった場合は、利用範囲の見直しやガイドライン修正が必要です。

Step3:セキュリティを強化する

運用中のセキュリティ対策は、外部攻撃だけでなく内部の誤操作にも備える必要があります。
例えば、不審な入力を自動的にブロックし、情報漏えいを防ぐツールを活用しましょう。

運用時の対策
・アクセスログの記録と監視
・不審なプロンプトの検知とブロック
・年1回の模擬攻撃テスト
・セキュリティ研修の定期実施

AI特有の攻撃(プロンプトインジェクション)に対応した専用ツールも併用すると効果的です。

Step4:従業員を教育する:最大の資産は「人」

どれだけ優れたツールやルールを導入しても、最終的にそれを使うのは「人」です。
生成AI関連の事故の多くは、その原因のほとんどは、使い方の誤解や知識不足といったヒューマンエラーが原因です。

従業員一人ひとりの生成AIに関するリテラシー向上が最も効果的なリスク対策となるため、役割に応じた継続的なリスキリング研修を用意しましょう。

【教育内容】
全社員:AI利用の基本ルール
管理職:リスク評価と判断方法
実務担当者:具体的な使用方法と注意点

Step5:法規制に対応し続ける

生成AIに関する規制は日々変化しています。最新動向の把握には、四半期ごとの定期的な確認し、社内のルールの見直しが必要となります。

日本では2019年の「人間中心のAI社会原則」(内閣府)において、「人間中心」、「教育・リテラシー」、「プライバシー確保」、「セキュリティ確保」、「公正競争確保」、「公平性、説明責任及び透明性」、「イノベーション」という7つの原則を定めています。

これを土台に、2024年には経済産業省と総務省が「AI事業者ガイドライン」を策定しました。
これらの原則を踏まえ、自社のAIシステムを定期的に見直すことで、適切な運用が可能となります。

弊社が提供する生成AIリスキリング研修「社内に教え合う文化を構築」

前述したように、企業にとって最大の資産は人にあり、生成AI導入後に業務に取り入れていくのも人です。
リスクマネジメント成功させるには、従業員一人一人への生成AIの研修が必要不可欠となります。

トライフォースが提供する生成AIリスキリング研修は、単なる「スキルの場」ではなく「半永久的にAIを自ら活用・成長し続ける御社独自のナレッジエンジン」となります。

弊社の生成AIリスキリング研修を導入いただければ、研修だけではなく社内に教え会う文化を構築することができます。

 まとめ

生成AIは、業務効率化を加速させる強力なツールですが、その裏には本記事で解説したようなさまざまなリスクが伴います。しかし、リスクを正しく理解し、備えることは、AI利用を諦める理由にはなりません。

導入前の周到なリスク評価と体制構築、そして導入後の継続的な監視と改善。こうした適切なリスクマネジメントを実践することで、生成AIは企業の競争力を飛躍的に高める「最強のパートナー」となり得ます。

本記事が、皆さまの会社に合った活用方針を策定し、安全かつ効果的なAI導入を実現するための一助となれば幸いです。