社内AIエージェント構築入門|前編
AutoGen・CrewAIで問い合わせ対応を自動化する方法

毎日繰り返される同じ問い合わせへの対応。依頼を受けると現行業務を止めてまで対応しなければならない非効率さに、人手不足もあいまって担当者の負担は非常に大きなものとなっています。
このような状況から、近年では社内の問い合わせ対応やヘルプデスク業務において、「AIエージェント」の導入が注目されています。生成AI(Generative AI)の進化は目覚ましく、特にAutoGenやCrewAIといったプラットフォームは、従来のチャットボットとは異なり、柔軟性と拡張性を備えており、導入効果が期待されています。
この記事では、社内AIエージェントを構築するために必要な知識と手順を、順を追ってわかりやすく解説していきます。

生成AIとAIエージェントの違い

AIと一括りにしがちですが、生成AIとAIエージェントとでは、どのような点が異なるのでしょうか。

生成AIとは
単体でテキスト・画像・音声などのコンテンツを生成する技術です。代表例はChatGPTやGoogleGeminiなどがあり、最近ではスマホアプリとしても馴染みのあるものです。

AIエージェントとは
生成AIをベースに、特定タスク(例:社内問い合わせ対応、資料作成、ナレッジ管理)を遂行する「役割指向型」の仕組みを提供します。

つまり、生成AIは素材(情報、知識)を提供する一方、AIエージェントはその素材を業務タスクに適用する「仕組み、プロセスフロー制御」といえばよいでしょうか。
社内AIエージェントは、この仕組みを使うことで、単なるチャット回答ではなく、「業務ルールに即した自律的なタスク処理」まで担うことができます。これが生成AIとの大きな違いです。

主要AIエージェントツール紹介

AutoGenとは何か?主な特徴と機能
AutoGenは、Microsoft Researchが開発したオープンソース型エージェントフレームワークです。
 主な特徴は以下の通りです。
●      エージェント間の協調(Multi-Agent Coordination)
●      タスクベースのプロンプト自動生成
●      Pythonベースでカスタマイズ性が高い
●      外部API、データベース、社内システムとの柔軟な連携が可能
特に、複数のエージェントが対話しながら最適解を導く「チャットベース協調推論」機能は、複雑な問い合わせにも対応できる大きな強みです。各エージェントに役割を設定することで、エージェント同士がそれぞれの役割に基づいて議論や協調作業を行うようになり、より精度の高い結果を導き出すことが可能になります。

CrewAIとは何か?主な特徴と機能
CrewAIは、AutoGenの思想を受け継ぎつつ、エンタープライズ利用に特化して設計されたプラットフォームです。
●      エージェントの役割・権限設定が可能
●      ワークフロー設計に優れる(ノーコード設定支援もあり)
●      ドキュメント連携(Notion、Confluence等)を標準サポート
●      マルチモーダル対応(テキスト、ファイル、画像)
CrewAIは、社内ヘルプデスク、営業支援、情報検索代行など、幅広い業務に適用可能な汎用性を持ちます。 また、セキュリティ・監査機能も備え、企業利用におけるガバナンス要件にも適応しています。
前出のAutoGenが会話型エージェントとすれば、このCrewAIはプロセスという概念を持ったエンタープライズ向けエージェントといえます。

AG CrewAI

社内AIエージェント構築手順

ここでは、AutoGen・CrewAIを用いて社内AIエージェントを構築する手順を解説します。以下の通り、8つのSTEPで構築していきます。

業務・問い合わせパターンの整理と分類 (STEP-1)

日常業務の中からエージェント化対象業務を洗い出します。一例を以下に示します。
障害対応業務(例:VPN接続不可、ログインできない)
手続き支援業務(例:アカウント発行申請、パスワード変更方法)
ナレッジ共有参照業務(例:社内規程、マニュアル確認)

分類としては、「頻度」「複雑性」「応答テンプレートの有無」等の情報を使います。これらの情報を元に、各タスクごと、AIエージェント化が可能か、難易度がどれくらいあるのか、どの業務・タスクから導入すべきか、業務内におけるAIエージェント適応範囲(スコープ)決めをおこないます。

表1. 対象業務毎にエージェント化対象タスクの分類をまとめた表

ユーザーニーズの把握と要件定義 (STEP-2)

次に、問い合わせを行う社員のニーズを「どのレベルまで自動対応すべきか」を要件化します。
緊急度:すぐに答えがほしいのか?
自動化の範囲 :途中まで誘導してもらえばいいのか?
人的操作介入箇所の可視化:人手連携(エスカレーション)のルールはどうするか?
以降の設計に当たって、これらAIエージェント化対象業務の緊急度・範囲・粒度の明確化が必須です。

プロンプト設計と応答フロー作成 (STEP-3)

AutoGen・CrewAIでは、「プロンプト設計」が非常に重要です。
プロンプト設計においては、
●      タスク指示を明確にする
●      前提情報(対象システム、制約条件)を明示する
●      期待する応答フォーマットを指定する
といった要素を含めることで、AIエージェントとして最適な振る舞いを実現していきます。

加えて、「ユーザーの質問→AIの応答→次アクション」という流れ(フロー)を設計することで、個々のタスク間のつながりが明確になり、プロセス、フロー制御が可能という特徴をもつAIエージェントならではの機能が実現できます。

(後半に続きます)