社内AIエージェント構築入門|後編
AutoGen・CrewAIで問い合わせ対応を自動化する方法

AutoGen・CrewAIの環境構築 (STEP-4)

AutoGenの場合
Pythonが動作する環境が必要です。AutoGenそのものはGitHubからのインストールとなります。さらにLangChain、OpenAI SDKなど必要なパッケージやAPIキーをインストールします。

CrewAIの場合
 Pythonが動作する環境が必要です。CrewAIそのものはGitHubからのインストールとなります。さらにLangChain、OpenAI SDKなど必要なパッケージやAPIキーをインストールします。また、 CrewAI社、Cloudera社などが提供するSaaS型なら、アカウント登録後、設定ガイドに従ってエージェント作成を始めます。

セキュリティ・ガバナンス設計 (STEP-5)

社内導入時には、以下の観点での設計が必須です。これはAIエージェントに特有の事項というわけではなく、情報セキュリティ対策としての一般的な内容ですが、確実に設計に反映させる必要があります。
●      プロンプトデータやログの保存方針
●      個人情報・機密情報の取り扱い基準
●      エージェントの権限管理
情報漏洩防止のため、最小権限設計(Principle of Least Privilege)の徹底を推奨します。
また、「プロンプトインジェクション脆弱性攻撃」と呼ばれる手法も存在しており、これらのリスクについても、生成AIやAIエージェントのプロンプト設計において十分に検討しておくことが重要です。

社内システムとの統合・連携 (STEP-6)

AIエージェントは単体での利用ではなく、他システムや社内のデータを活用連携することで、高い精度で業務・タスクを実現するため、以下のようなシステムとの連携も考慮して設計します。
社内ポータル(SharePoint、Google WorkSpace)との統合
問い合わせ業務の稼働状況可視化、各システムから取得した情報の分析結果の公開が可能となります。

Active Directory(AD)との認証連携
利用者の認証を全社のADと連携することで、不正アクセスの防止に役立ちます。

社内FAQデータベースとの同期
社内ドキュメントやデータを横断的に検索、活用し、最適なナレッジの提供が可能となります。また、問い合わせ実績、結果の一元管理、可視化、共有化が可能となります。

試験運用(PoC)とフィードバックサイクル設計 (STEP-7)

スモールスタートで始めることを推奨します。初期は、「小さな業務領域」でPoC(Proof of Concept)を行い、以下を検証します。
●      回答の精度
●      ユーザーの満足度
●      エラー発生時のリカバリ手順
ここからのフィードバックをもとに、プロンプトやフローの改良を重ねて、徐々に導入業務を広げていきます。

本格展開とスケールアップ (STEP-8)

初期のPoC成功後は、適用領域を段階的に広げ、対象部署の拡大(例:情シス→総務→営業)、エージェント数の増加(複数タスク担当)を進めます。さらに、RAG連携による知識基盤強化も視野にいれてスケールアップが可能です。(RAGに関しては後述を参考)

ノートパソコンの画面を見ながら男性がキーボードに打ち込んでいます。

AIエージェントの能力を拡張する「RAG」技術

RAG(Retrieval-Augmented Generation)とは?
RAG(リトリーバル・オーグメンテッド・ジェネレーション)とは、外部知識データベースを参照してから、AIが回答を生成する技術です。
従来の生成AIは訓練データに依存するため、最新情報や社内固有情報には弱いという課題がありましたが、 RAGを活用することで、

  1. 最新かつ正確な社内情報の反映
    ナレッジベース(社内マニュアル、議事録、FAQなど)をリアルタイム検索して回答に活用
    → 「古い情報で答えてしまう」リスクを低減。
     
  2. 機密・特定業務に特化した回答
    特定部署専用の文書(例:人事規定、IT運用手順)をRAGで引き出して回答
    → ChatGPT単体ではカバーできない社内独自知識に対応可能。
     
  3. 業務ドキュメントの探索時間削減
    文書検索+要約機能により、資料を読む時間を大幅に削減
    → ナレッジワーカーの生産性向上に貢献。
     
  4. 根拠つきの説明(ソース提示)
    回答に使用した文書や該当箇所を引用として明示
    → 回答の透明性と信頼性が向上。ハルシネーションの軽減。
     
  5. 継続的な情報更新が容易
    ナレッジの更新は「ドキュメントを差し替えるだけ」で完了
    → モデルの再学習なしで即時アップデートが可能。
    等が期待できます。
    社内ナレッジとAI回答精度向上の関係
    社内専用のナレッジベースを構築し、AIから自然言語で参照できるようにすることで、回答の正確性と網羅性が飛躍的に向上します。
    AutoGen・CrewAIとRAG連携による応用例
    問い合わせに対して「出典付き回答」を生成することで情報の信頼性を担保したり、社内ドキュメントを横断検索したりすることで、ナレッジに基づく一貫性のある対応が可能となります。また、組織ごとのポリシーに沿ったカスタム応答も実現できます。
    さらに、CrewAでIはノーコードで外部データベース接続できる設定機能もあり、非エンジニアでもRAG導入が進めやすい設計になっています。

社内AIエージェントで実現できること

AutoGenやCrewAIを使った社内AIエージェントにより、以下のような業務改善、効率化が期待できます。
問い合わせ対応の効率化
時間や祝祭日等の制約なく24時間365日即時対応が可能となります。また、簡単な問い合わせであれば「受付~回答~必要な情報の提供」等を完全自動化できます。複雑な案件に関しては、職員へのエスカレーションの仕組みを事前に設計しておくことで、人手の介入も想定した対応が可能です。
自動化できる業務は自動化し、人手による作業や判断が必要な業務に人的資源を集中させることで、問い合わせ対応要員の負荷を大幅に軽減することが可能になります。
ナレッジ共有・標準化の推進
あらかじめ設計されたプロンプトに従い、全社で共有された情報からの回答生成が行われるため、知識の俗人化を抑制し、問い合わせ内容や回答内容も知識として蓄積されます。蓄積された情報でさらにAIの学習が進むことが期待できます。

結果として、業務知識が「組織資産」として可視化・活用され、回答内容や対応内容に関しては、誰に対しても同水準でサービス提供が可能になります。
業務負荷軽減と人的リソースの最適化
AIエージェントの導入により高い効果が得られる領域として、特にルーティン業務での省力化が期待できます。ルーティン業務をAIエージェント化することで、人的資源はより高度な業務、AIでは対応できない領域へシフトできます。
また、急な人材不足、パンデミック等においても業務継続性を一定レベルで維持可能になるでしょう。
つまり、人手不足が深刻化する中でも、限られたリソースを、より戦略的に活用できるようになります。

まとめ

社内AIエージェント導入は、「単なるチャットボット導入」ではありません。業務プロセスの最適化、ナレッジ管理の高度化、組織の競争力やガバナンス強化を支え、複数のタスクを実行し管理できるようにする戦略的なプロジェクトです。
また、AutoGen・CrewAIの活用により、これまでは手作業で対応していた問い合わせ業務を自動化し、人的リソースを、より高付加価値の業務・役割にシフトさせることが可能になります。
本記事が、問い合わせ業務の自動化にあたってのAutoGenやCrewAIの導入、活用の参考になれば幸いです。