本当に必要?生成AIリスキリングの企業メリットと実践的な導入ステップ
「AIを使って効率化したい。でも、どこから手をつければいいのか分からない。」
最近、そんな声をよく耳にします。
会議では“とりあえずChatGPTを使ってみよう”という話題が出るけれど、実際には数人しか触っていない。そんな会社も少なくないでしょう。
生成AIをうまく活用している企業は、最初から完璧だったわけではありません。小さな実験を繰り返しながら、「学ぶ仕組み」を社内に作っていったのです。
この記事では、生成AIリスキリングの基本から企業が得られる具体的なメリット、実践事例、導入ステップまでを解説します。
生成AIリスキリング研修導入の参考になれば幸いです。
目次
1.生成AIのリスキリングとは?
2.なぜ今、生成AIのリスキリングが不可欠なのか
3.生成AIのリスキリングによるメリット
4.企業や自治体の生成AIの活用事例3選
5.弊社トライフォースの生成AIリスキリング研修の流れ
6.生成AIのリスキリングを成功させるポイント
7.まとめ
生成AIのリスキリングとは?

生成AIのリスキリングとは、AIを活用する人材を増やすことだと思われがちですが、実は違います。本記事では、生成AIのリスキリングを、「AIによって個人が業務改善ができる環境を整えることで、業務改善事例が社内で活発に共有され、組織的な学習効果を生み出す取り組み」と考えています。
従来のIT研修と比較してみましょう。従来のIT研修では「ツールの使い方」に焦点が当たっています。ですが、生成AIリスキリングは少し違います。もちろん個人のスキルアップはしますが、そのスキルアップによって、AIを活用する文化を組織に根付かせ、継続的に学習する組織にしていくことも含まれています。
単なる学習ではなく、組織として学習する仕組みを作るというのが大きなポイントになります。
なぜ今、生成AIのリスキリングが不可欠なのか

企業が生成AIリスキリングに取り組むべき理由は主に3つに整理することができます。
深刻なIT人材不足、AI技術の急速な進化、そして政府の手厚い支援です。ここでは3つの理由を解説します。
IT・DX人材不足が深刻化する日本の現状
日本では、DXの取組を担う人材の不足が一層深刻化しており、経済産業省の調査によると、2030年には最大78.7万人ものIT人材が不足すると予想されています。
当然、人材が不足すれば新規採用も難しくなります。だからこそ、既存社員のリスキリングによって、社内にIT・DXを推進できる人材を増やしていく取り組みが不可欠でしょう。
また、日本の大多数を占める中小企業は、一般的に採用競争力や資本力の面で不利な立場に置かれます。そのため、生成AIを中心としたリスキリングで自社のIT・DX人材を育成していくことが重要になっています。
生成AIツールの進化と使い方格差の拡大
生成AIツールは驚異的なスピードで進化しています。ChatGPTやGemini、Claudeなどの性能は日々向上し、追いつくだけでも必死だと思います。このような進化の中で生まれてくるのが、生成AIを「使いこなせる企業」と「使いこなせない企業」の存在です。
例えば、DeNAの南場智子代表取締役会長は「AIによって1人で10人分の仕事が可能になり、今の半分の人員で現業を成長させ、残りの半分でユニコーンを量産する」と表明して話題を呼びました。一方で帝国データバンクの調査によると、生成AIの実利用は2割未満という結果もあり、導入できていない企業の多さを示しています。これらは、使える企業と使えない企業の二極化を示唆しているように感じます。
この現象は生成AIの進化と共に加速する可能性が高く、生成AIの活用を積極的に推進する企業はより成長し、出遅れた企業は競争についていけなくなるかもしれません。
政府の支援・助成金制度による追い風
最後の理由は、政府によるリスキリングを支援するための補助金・助成金の存在です。
厚生労働省の「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」では、中小企業の場合、研修経費の75%が助成されます。この制度により、例えば1人あたり30万円の研修費用が、実質7.5万円の負担で実施できるので、企業には大きなメリットです。
また、経済産業省とIPAは、生成AIの登場や進化を踏まえて「デジタルスキル標準(DSS)」を改訂しており、DXに関わるビジネスパーソンに求められるスキルを明確化しています。このような目安があることで、企業が人材育成をしやすくする取り組みをしているようです。
政府が明確な指針を示し、資金面でも支援している現状は、リスキリングに取り組む絶好のタイミングでしょう。
生成AIのリスキリングによるメリット

生成AIのリスキリングが必要とされる中で、どのようなメリットがあるのでしょうか。本章では、生成AIリスキリングのメリットとして、①即効性のある業務効率化、②学習する組織文化の醸成、③売上向上の3つを解説していきます。
業務効率化による時間の創出
最もわかりやすく、短期的な成果も出やすいのが、業務効率化です。
生成AIのプロンプトを使えば、文書作成・要約・調査・チェック業務等の効率化ができるケースが多いです。もちろん試行錯誤は必要ですが、プロンプトを改善していくことで精度が上がってくるでしょう。
具体的な業務としては、契約書確認、市場調査や競合分析、日報や議事録作成等の業務では活用がしやすいかもしれません。これらの業務は業務時間削減をわかりやすく実感できるため、最初の取り組みとしておすすめです。
業務改善をする組織文化になる
生成AIのリスキリングの特徴として、個人で手軽に業務改善ができる点が挙げられます。
大規模なシステム開発と違い、プロンプトの工夫によって文章作成やリサーチ業務など、日々の業務を効率化することができます。
少し高度なレベルであれば、生成AIを活用したアプリケーションの開発も可能です。個人の業務に最適化されたアプリケーションを、個人で作るという状況は、これまでのシステム開発にはなかったと思います。
個人で試してみて、個人で成果を実感できる。これは生成AIの大きな特徴です。このような個人活動の積み重ねによって、業務改善が組織文化として根付いてくると理想的です。個人レベルの業務改善をどんどん促していきましょう。
売上アップに貢献する
生成AIはバックオフィス系業務の改善に使われるイメージがありますが、提案資料の作成や顧客データの分析などの売上に直結する領域でも活用ができます。
自社の商品データとクライアント情報を入力して提案書の骨子を作成したり、商談のデータからトークスクリプトの改善提案をしたり、営業プロセスに組み込むことができるでしょう。
こういった営業プロセスの効率化により、同じ人員でより多くの提案活動が可能になり、商談数の増加と成約数の増加につながります。筆者の経験としても、営業担当が商談できる時間を増やすことを目的として活用を推進していました。
バックオフィスだけでなく、営業やマーケティングの業務でも生成AIの活用で効果を実感出来る点は、社内で生成AI活用を推進していく上で重要なメリットと言えると思います。
企業や自治体の生成AIの活用事例3選

ここまで生成AIリスキリングの必要性とメリットを見てきました。
では、実際にどのような成果が出ているのでしょうか。ここでは、その活用事例を紹介します。
【事例1】三菱商事は書類からの情報抽出業務を効率化
三菱商事は会計業務のPoCで、契約書や保証関連書類からの情報抽出において平均97%の精度を達成しました。支払調書要否の判定では再現率98%を記録し、帳票読取と判定プロセスを生成AIで統合することで、実務適用の有効性を確認しています。
スモールスタートとしてのシンプルな業務の改善でも、規模の大きな企業にとっては大きな効果につながることを示唆していると思います。
【事例2】オイシックス・ラ・大地はメルマガ作成の工数を削減
食品宅配のオイシックス・ラ・大地は、メルマガ作成で月133時間、校正で月200時間の工数削減に加え、CVR(コンバージョン率)が人力と比べて2倍という成果が出ています。
同社のエンジニアブログでは、景表法・薬機法等のNG表現の検出と言い換え提案までをプロンプト設計で組み込み、運用現場で使える校正フローを作り込んでいます。テンプレ化されたプロンプトとサンプル入出力で再現性と品質を担保しているのがポイントです。
テンプレート化したプロンプトで再現性を担保することで、「誰が使っても一定の品質」を実現しており、生成AIが短期的に効果を出しやすい部分での事例として参考になりそうです。
【事例3】横須賀市はセキュリティ面の懸念をクリアして生成AIの導入
横須賀市は国内自治体で先駆けて、全庁でChatGPTの試行導入を実施しました。約4,000人の職員が文書作成・要約・誤字校正・議事要約などで活用し、業務効率の改善を検証しています。
自治体向けチャット基盤(LoGoチャット)と連携し、機密情報の取扱ルールも整備し、セキュリティ面での懸念をクリアしていきました。セキュリティに不安がある企業にとって参考になる事例だと思います。
弊社トライフォースの生成AIリスキリング研修の流れ

生成AIリスキリングはどのように導入すればいいのでしょうか?トライフォースでは、「e-Learnig」と「活用事例共有会」の組み合わせにより、インプットとアウトプットの両面から生成AI活用を組織のあたりまえにするためのご支援をいたしております。
ここでは、弊社の生成AIリスキリング研修の実際の流れを4つのステップに分けて解説していきます。
ステップ1:社内で生成AIを使える環境を整備する
まずは、生成AIツール選定と利用ルールの策定をし、個人が生成AIを使える環境を整備しましょう。
生成AIのおすすめを紹介する記事や企業事例を参考にしながら比較検討し、導入する生成AIツールを決めていきます。
例えば、文書作成にはChatGPT、リサーチにはGeminiといった具合ですね。
| 業務内容 | 生成AIツールの例 |
|---|---|
| 業務を効率化したい | Copilot、Gemini、NotebookLMなど |
| 画像を生成したい | DALL-E、Midjourneyなど |
| 動画を生成したい | Sora、Runway MLなど |
| 音声を生成したい | RVC、MusicLMなど |
| プログラムコードを生成したい | GitHub Copilot、Code Llamaなど |
加えて、ログと権限管理、情報入力のルール、プロンプトの保管場所、使用可能な生成AIの種類の明確化等の基本的な利用ルールを決めていきます。ここは結構大変な作業なので踏ん張りどころです。
ステップ2:弊社提供「e-Learning」による生成AIを学べる環境を整備する
生成AIツールを導入して終わりではなく、次に弊社が提供するe-Learnigを組み合わせて、生成AIについて学べる環境を整備していきます。
基礎としては、生成AIの仕組み、リスク、セキュリティの基本等が必要だと思います。その後応用で、部門別ユースケース、実践的プロンプト集等を学習し、実務に活用していくと良いでしょう。
| 生成AI基礎コース (5時間) | 生成AI応用コース ChatGPT (5時間) | 生成AI応用コース ツール研修 (4時間) |
|---|---|---|
| ・オリエンテーション ・生成AIを学ぶ必要性 ・生成AIの基礎 ・生成AIがビジネスに与える影響 ・生成AIにできること ・生成AIにおけるリスク | ・各業種、部門の生成AI活用 ・営業部門の生成AI活用 ・マーケティング部門の生成AI活用 ・新規ビジネスにおける生成AI活用 ・生成AIが生み出す新しい職業 ・実践的プロンプト集 | ・業務効率化 ・画像生成 ・動画生成 ・音声生成 ・コード生成 |
基礎から応用まで、生成AIの活用と学習がサイクルとして回り始めることで、個人での生成AI活用が促進されていくイメージです。
ステップ3:生成AIの活用事例を共有する環境を作る
e-Learningで知識を詰め込むだけでは、単なるスキルの場で終わってしまいます。弊社トライフォースが提供する生成AIリスキリングでは、個人の活用事例を部門や会社全体へ展開するために、定期的に生成AIの使い方を共有する仕組みを作っていきます。
弊社の生成AIリスキリング研修であれば、活用事例共有会のスムーズな運用開始に向けた支援メニューを提供しており、
社内に教え合う文化が構築され、生成AIスキルを教える講師を毎年呼ぶ必要がなくなります。
| ファシリテーターアサイン | ファシリテーター育成 | 共有会フォーマット提供 |
|---|---|---|
| 毎月1回の活用事例共有会にファシリテーターとして 弊社のメンバーをアサインし、 円滑な進行や議論の活性化を促します。 | チームリーダー1名を決めて契約期間の3ヶ月内で、 ファシリテーターとして育成します。 | 会議の進行を円滑にするためのフォーマットを提供し、 議論の整理や意見の共有を効果的にサポートします。 |
月1回の活用事例共有会を開催し、「成果・失敗・改善点」を共有するなどは効果的です。プロンプトの精度やツールと業務の相性等、個人でPDCAを回して得た学びを、共有会によって「会社の資産」に変えていくことが可能です。ここまで来る頃には、個人レベルで著しく業務改善が進んでいる社員も出てきてるかもしれません。
ポイントは、成功事例だけでなく失敗事例も積極的に共有することです。同じ失敗をしない仕組みが生まれて、組織全体の学習速度と活用が加速します。
ステップ4:生成AIを業務プロセスと評価制度に組み込む
生成AIを学習しながら活用する状態になったら、生成AIの活用を前提にした業務の再設計と人材設計を行います。
例えば、営業の提案資料作成や契約書確認での生成AI活用を標準化して、生成AIを前提にした営業プロセスに切り替えます。
人材面では、「AIを使える人材」が評価される制度を導入したり、新規採用で「AI活用スキル」を重視することで、組織全体のAIリテラシーを高めることが可能です。
生成AIのリスキリングを成功させるポイント

生成AIのリスキリングは「使い方を知って終わり」を避けるのがマストです。
ここでは、弊社が生成AIリスキリング研修を半永久的なナレッジエンジンへと変えてきた成功のポイントを3つ紹介します。
長期的に人材を育成する視点で生成AIリスキリングの目標を設定する
1か月目は「作業時間短縮」、3か月目は「部門標準化」、半年後は「新規提案増」、1年後は「ROI改善」、と長期的かつ段階的に目標を設定していきましょう。加えて、「社員のAI活用への意欲」「部門間の知識共有の活性度」等の定性的な指標も組み合わせることで、多面的に生成AI活用を促すことに繋がる場合があります。
目標は個人の行動に大きく影響します。会社として長期的に生成AI活用を進めていく方針を示すことで、社員がコミットしやすい環境が生まれ、個人や組織での活用が促進されていくでしょう。
会社として、生成AIを活用していくことを決める。まずはその明確な意思が必要かもしれません。
社員のレベルに合わせた生成AIの利用と学習の環境を整える
初学者には基本的な仕組みやプロンプトについての学習、実務者は業界や職種の事例紹介や自動化するためのシステム作りについての学習など、社員のレベルに応じた学習環境を提供してみましょう。
インプットとアウトプットの繰り返しが学習の本質だと思います。レベル別に学習できる環境を用意して、誰もが学習できるように準備をしていきましょう。
また、生成AI活用に積極的な社員による情報発信も有益な学習材料になる場合があります。研修やeラーニング等の提供だけでなく、社員からの情報発信を促す働きかけも同時に進めていくのがおすすめです。筆者の経験上、生成AI活用に積極的な社員は情報発信にも協力的なことが多いので、ぜひ社内で探してみてください。
自社の目的に合った生成AIリスキリングのパートナー企業を選ぶ
「生成AIのリスキリングを自社だけで進めるには不安」、「専門家と一緒に着実に進めたい」、という場合はパートナー企業を探す必要があります。
生成AIリスキリングのパートナー企業には、研修の期間やスタイル、得意とするツール、実績のある業界に特徴があります。自社の事業内容や業務プロセス、どのような組織を目指しているのかを明確にし、パートナー候補の企業に伝えることで、ミスマッチを防ぎましょう。
参考としてパートナー選定時に確認する項目例を紹介します。自社の目的に合わせてチェック項目を作ってみてください。
- 自社の業界での導入実績があるか
- 段階的な支援体制(導入〜定着〜発展)が整っているか
- セキュリティやコンプライアンスへの対応実績があるか
- 研修後のフォローアップ体制があるか
- 費用対効果が明確に示されているか
まとめ
いかがでしたでしょうか?
弊社の生成AIリスキリングは「使い方の研修」ではなく、学習する組織を作っていく長期的な取り組みです。スタートは小さくても、中長期的には事業へのインパクトが大きくなっていきます。
最後にもう一度ポイントを整理します。
- 生成AI活用は企業規模を問わず必要になってきている
- 業務効率化だけでなく収益を生み出す使い方もできる
- 個人活用、学習と共有、人事評価や業務プロセスに組み込みのステップで進める
- 適切な目標設定、環境整備、パートナー選定が成功のためのポイント
この記事が、生成AIのリスキリングで素晴らしい人材を育て、企業を成長させる皆様のお役に立てたら幸いです。